豊かな水と伝統が息づく和紙の里〜小川町・東秩父村〜
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埼玉県のほぼ中央に位置し、周囲を山々で囲まれた小川町と東秩父村。この地域では、およそ1300年の歴史を誇る小川和紙をはじめ、酒造、建具づくりなどが昔ながらの伝統が今へと受け継がれています。長年にわたり和紙を作り続けてきた豊かな山里の自然、歴史、風土、良質な水に囲まれて、日本のモノづくりにふれてみませんか?
更新日:2024.11.25
約1300年の歴史を感じさせる川の町、閑静な街並みと豊かな水
小川町へのアクセスは都心から電車が便利です。池袋から東武東上線で約70分で小川町駅に到着します。駅前には、小川町観光案内所「むすびめ」があり、観光案内のほか、自転車の貸出サービスやコインロッカー、アンティーク着物の着付けサービスやお土産販売、無料休憩スペースがあるなど、旅を始める前に立ち寄ると便利な機能を擁しています。「むすびめ」の建物自体が、昭和初期に創業された割烹旅館の建物を改修したもので、当時の柱や梁がそのまま使われているうえ、今回ご紹介する小川和紙の装飾が施され、小川町の伝統と文化を感じることができる空間です。
小川町駅前の通りを歩くと、7世紀後半から8世紀にかけて編纂された、現存する日本最古の歌集”万葉集”の解説が書かれた案内板が点在しています。これは1269年頃に、”万葉集”の研究史の巨星である学僧の仙覚(せんがく)が生涯をかけて万葉集を読み解き、ここ小川町で万葉集の注釈書を完成したことに由来していると言われています。
和歌にちなんだ観光名所の紹介も案内板に掲載されているので、チェックしながら小川町の散策を楽しむのも良いでしょう。
周辺エリアを歩いてみると、古い建築様式の建物を見ることができます。駅から程近くにある割烹旅館「二葉」の本館は、1933年に建築された木造2階建で、国登録有形文化財に指定されています。日本の伝統的な建築様式である数寄屋建築で、今でも割烹料理や庭を楽しむことができます。
小川町の散策を続けると、1880年代後半に建てられた土壁の漆喰造りの六軒長屋といわれる今では貴重な建物や、築100年を超える蔵造りの建物を改修したコワーキングスペース”NESTo”なども見ることができます。こうした昔ながらの雰囲気の残る閑静な街並みを散策すると、とても心が和みます。
町の中心部には槻川(つきがわ)が流れています。この川の豊かな水が、昔から小川町の和紙づくり、酒造りを支えてきました。
UNESCOに登録された「細川紙」〜小川和紙とは〜
小川町といえば「和紙」と言われるほど昔から伝わる工芸品です。紙の需要が増えた江戸時代後期には、紙漉き屋が750軒を超す産地として知られるようになりました。
小川町でつくられる和紙のなかで有名なものが、「細川紙」という手漉きの楮(こうぞ)紙です。細川紙は、紀州(今の和歌山県)高野山の麓、細川村で漉かれはじめた奉書用紙ですが、元々江戸の近くの小川町で紙漉きが行われており、その紙が細川紙に似ていたためその名が使われるようになったという説もあります。
手漉き和紙の中でも最高の品質を誇るこの細川紙の技術は、1978年に国の重要無形文化財に指定されました。その名の通り「和紙(日本の紙)」であるが故に、その原料となる楮(クワ科の落葉低木)は日本国産のものだけを使い、伝統的な製法と用具を使用して
紙を漉きます。
2014年に「和紙」の技術はUNESCOによって無形文化遺産に登録されました。登録されたのは、島根県の「石州半紙(せきしゅうばんし)」、岐阜県の「本美濃紙(ほんみのし)」、そして、紀州の細川村で漉かれはじめ小川町と東秩父村に伝承された「細川紙」です。
小川町には伝統的な道具を使って、紙漉きを体験できる施設があります。そのひとつが小川町和紙体験学習センターです。和紙作りは、手漉きをする前に、材料を加工するなどの様々な準備が必要です。冬の時期に訪れると、楮を精製するための工程を見学することができます。ここでは和紙づくり体験のほか、和紙でつくられたグッズを販売していますので、お土産として立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
小川町和紙体験学習センター
詳細はこちら:
https://www.town.ogawa.saitama.jp/0000003753.html
次に訪れたのが「道の駅・ひがしちちぶ 和紙の里」です。
東秩父村にあるこの施設は、道の駅として整備されていて、和紙づくり体験のほか、庭園の散策や、お食事、お土産購入などができる施設です。
「和紙の里」の敷地内には、江戸時代の末期(1850~1860年代)に建てられた紙漉き家屋を移築・復元した埼玉県指定の有形民俗文化財があります。この家屋では、紙すきの説明や体験ができる機会も設けられているほか、当時の和紙づくりが行われていた道具などを見学することができます。和紙の里には、常時紙漉き体験ができる工房の「つきがわ」があり、ここでは実際に和紙作りを教わりながら体験することができます。
道の駅・ひがしちちぶ 和紙の里
詳細はこちら:
http://www.higashichichibu.jp/hosokawashi/washinosato
伝統的な忠七めし〜数寄屋建築の割烹旅館でランチ~
和紙づくりを体験した後は、老舗の割烹旅館「二葉」で、旬の味覚を味わえるランチを堪能しましょう。
ここはおよそ270年余の歴史があり、現存する瓦葺木造二階建ての数寄屋造りの建物は、1933年に、建築されました。今でも昔ながらの風情を漂わせる建物で、映画監督の黒澤明氏らもここを訪れたと言われています。
一階の「月の間」の壁面は、鉄粉が練り込まれているため年月の経過ととも錆の変化を楽しむ趣のある意匠「錆壁(さびかべ)」という技法でつくられ、現在では修復が難しいと言われています。
二階に上がる階段の手摺りの意匠(デザイン)も、昔ながらの貴重なものとなっています。当時は三味線などを使用して舞が披露された二階の大広間は、今も結婚披露宴などで使われることもあります。床の間には、風格のある大きなもみじの床柱があり、天井や障子も、建設当時の雰囲気を味わえる凝ったデザインがあしらわれています。
二葉の庭園は、石を基調とした回遊式日本庭園で、日本の国歌「君が代」で歌われている「さざれ石」や可愛らしい「うさぎ石」が見られる場所となっています。
ここでのおすすめメニューは日本五大名飯の「忠七めし」です。温かいごはんに新鮮な海苔を加え、独特のつゆをかけて、お茶漬けのように召し上がってください。海苔は禅の深さを表し、薬味のわさびはピリッとした剣の鋭さを、柚子は香り高く書の精神を表しているそうです。
割烹旅館「二葉」
詳細はこちら:
https://ogawa-futaba.jp
酒づくりに適した小川町 〜豊かな地下水を活かした酒づくり〜
最近、海外でも注目されている日本酒、その魅力にハマっている愛好家の方も多いのではないでしょうか?
実は埼玉県は日本酒の生産量が全国4位という、日本酒づくりが盛んなエリアで、県内には多くの酒蔵があります。日本酒の味の決め手は良質な水にあります。良質な和紙を生産できるほどの小川町周辺は、その良質な水資源を元にした日本酒の生産地です。
今回訪れた松岡醸造は、1851年に小川町で創業され、その際に酒蔵の柱や梁を、生家である越後(現在の新潟県)から持ち込んで移り住みました。なぜ現在の小川町に移ったか、その理由は2つあったそうです。
その理由の1つ目は、当時は江戸と秩父を結ぶ秩父往還と、八王子(東京都)と上州(現在の群馬県)を結ぶ八王子街道という二つの道が交わる場所であり、人の往来が多かったこと。そして理由の2つは目、小川町がお酒の仕込みに大切な「良質な水」に恵まれていたということです。
ここ松岡醸造の近くを流れる「槻川(つきがわ)」は透明度が高く良質な水です。酒造りに使用する水は地下130mから汲み上げて、良質な水が酒造りを支えています。
小川町の硬水は、石灰岩系でミネラル分が多く、酵母の発育を促す作用があるため、ほぼ無加工で使用でき、酒造りに適していると言われています。武甲山をはじめ秩父の山々を超えた、ミネラル豊富な地下水を使用した松岡醸造のお酒は、旨味と香りが両方引き立つ、独特のテイストで人々に親しまれています。ここで作られる「帝松(みかどまつ)」は、日本の全国新酒鑑評会で金賞を受賞している銘酒です。
酒蔵はおひとり様から気軽に見学可能(言語対応:日本語・英語)で、併設の酒蔵レストラン「松風庵(しょうふうあん)」では庭園を望めながら食事をすることができます。日本酒や、仕込み水の試飲ができるほか、お酒を使ったゼリーやオーガニックコスメなど、酒蔵ならではの豊富な商品が揃っていますので、小川町の良質な水を体験できるスポットとしてぜひ訪れてみてはいかがでしょうか?
松岡醸造株式会社
詳細はこちら:
https://www.mikadomatsu.com
お土産におすすめ ~昔と今のコラボレーションした和紙~
小川町駅前の門倉和紙店では、手漉き細川紙、小川和紙をはじめ、和紙民芸品などを多数取り扱っています。お土産に相応しい和紙小物が揃っていますので、あなたのお好みにあわせて、お土産にいかがでしょうか?
門倉和紙店
詳細はこちら:
http://www.kadokura-washi.jp
※その他関連情報
「道の駅おがわまち 埼玉伝統工芸会館」
現在リニューアル工事中につき、2025年オープン予定です。
詳細はこちら:
https://www.saitamacraft.com
いかがでしたか?
今回は、昔からこの地に伝わる、良質な水を活かしたものづくりをテーマに、和紙、日本酒づくりの盛んな小川町をご紹介しました。東京からちょっと北へ足を伸ばすと、そこには自然の恵みを、今に受け継がれている歴史と伝統があります。たまには都心を離れて自然風土が生み育てたものづくりに触れる旅を楽しんでみませんか?